第二十話

金曜日の今日、家事も一通り終わり、する事もなくただボーっとテレビの画面を見つめる。主のいない部屋の中は、とても静かにゆっくりと時間が過ぎる。
直江が今朝、夕方に会議がありその後飲み会があると言っていた。

机の上の携帯に目を移すとメールが来ていることに気づく。
直江から、もうすぐ帰るという旨のメールだ。

ソワソワする気持ちを抑えていると、聞きなれた靴音が玄関の前で止まった。続いてガチャっと鍵を開ける音が聞こえたので急いで立ち上がった。

「お帰り」

玄関まで迎えに行き、直江のバックを自分から受け取る。

「ただいま、高耶さん」

酒に緩んでいた顔がさらにデレっと崩れた。あーあー、せっかくの男前が台無しだ。つかこいつ酒くさっ。

「ほらニヤけてないでさっさと上がれ」

どっちが家の主だか分からない発言だが直江は突っ込まず、俺は「高耶さんは新妻ですね」とかほざいているのを無視した。


バタっとソファーに倒れ込む直江からスーツの上着を剥ぎとる。

「おい皺になんだろーが。あと水ついできたから早く飲め」

ワイシャツ姿の直江は体を起こすと、言われた通りに水を口へ運んだ。
上下する喉元を見て、苦しいだろうと思いネクタイをシュルりと解く。ついでにシャツを第二ボタンまで外してやると、突然手首を掴まれた。

「誘ってるの?」
「…は?何言っ…」

言い終わらない内にソファーに押し倒される。

「ぅおい!何すんだよ!」
「なにって…ナニでしょ」

突然の暴挙に焦って抜けだそうとするが、力で適うはずもない。ソファーに縫い付けられたまま下から睨み上げると、直江が口の端しを上げた。
気だるげな表情がやけにエロい。

「あなたは怒っている顔も魅力的だ」
「…おい、悪ふざけもいい加減にしねえと殴るぞ」

俺のドスの効いた声もどこ吹く風で、直江は首元に唇を寄せるとそこを強く吸った。

「ぎゃ!」

スイッチの入ってしまった直江は、フェロモンを垂れ流しながら甘い低声を耳に吹き込んでくる。

「ねぇ高耶さん、想像したこと無い?俺とヤるの…。俺はありますよ」

男の大きな手が、俺の腰を服の上から撫で回す。

「この細い腰に俺のを突っ込んで、滅茶苦茶に揺さぶりたい」
「ざけんな…、この酔っ払いッ」

下腹部をゆっくり撫でられる。ゾクゾクとしたものが背中を駆け抜けた。 ワイシャツの肩を掴む手が震える。
必死に身をよじって抵抗するが、ついに下着の中にまで侵入してきた手に目を見開いた。

「や…!やだっ!」
「大丈夫、気持ちイイだけですから…」
「……っ」

だが次の瞬間、直江は頭にクリティカルヒットした渾身の膝蹴りにより沈没した。

「いい加減にしろスケベ野郎!!!!」

俺の上に崩れる体を突き飛ばし、ソファーから転がり落とした。


直江が次に目を覚ましたのは翌朝の昼頃だった。
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